厳密さを求めること(5)くりこみ理論、正則化

次元正則化

 

この次元正則化は論理的一貫性、つじつまが合っている事、を求めて考案されたものですが、一部の本を除いて無視されています。これについて書き留めておきます。

 

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量子電磁気学ができた時、検算のために実験値と対応する理論値を計算しようとしたところ、値が無限大になる量が途中で現れて困りました。この無限大を処理する方法として編み出された計算方法がくりこみ理論です。

 

しかし、ここで問題なのは「無限」ということではありません。無限を扱う数学があります。問題なのは、その量の「数学的な定義が無い」、という事です。

そこで、考えられたのが正則化と呼ばれる、逃げの技法で、

   数学的な定義が無い式 ー(正則化)→ 数学的な定義がある式

のように変換(論理的な飛躍)をします。なんだか、相対性理論ユークリッド化に似ています。

 

以下で、正則化前を小文字の英字で、正則化後を大文字で書きます。

実験と比較する理論値の計算式が、ある量aの関数になっていて

   理論値 = f(a)               ・・・(1)

   f:数学的定義が無い

のとき、これ以上、式の変形ができません。そこで、正則化して

   理論値 = F(A)               ・・・(2)

   F:数学的定義がある

とします。これは普通に計算できるので

   理論値 = G(A)とH(A)からなる計算式    ・・・(3)

の形に変形します。この2つの関数GとHは
   G(A):数学的定義がある

   g(a):数学的定義が無い

   H(A):数学的定義がある

   h(a):数学的定義がある

となるように変形します。次にG(A)を別の実験の実測値mに置き換えます。

   理論値 = mとH(A)からなる計算式     ・・・(4)

このmは例えば1.234のような数値です。最後に正則化を元に戻します。

   理論値 = mとh(a)からなる計算式     ・・・(5)

こうして、先へ進めない式(1)から計算ができる式(5)を得るのがくりこみの処方です。

なお、(2)から(3)への式の組み換えの方法は色々あり、その方法全体をくりこみ群と呼びます。

 

くりこみは、正則化とそれを戻すステップを無視すれば

   f(a)

    ↓

   g(a)とh(a)からなる式

    ↓

   mとh(a)からなる式

としているように見えます。

 

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正則化として最初に使われたのが、カットオフ正則化(紫外正則化)です。カットオフ正則化は、大雑把には、素粒子が到達できる時空の範囲を、有限の大きさの直方体と考える、というものです。カットオフ正則化した後の式は、ローレンツ共変性を持たないため、正則化をしてから正則化を戻すまでの間、一時的に、理論が非相対論的になります。これは相対論的量子力学としては論理的矛盾で、哲学とか数学だったら許さないかも知れません。実験に合うので物理は許しました。

 

くりこみとは違うたとえですが、

   a = b / 0

はaの値が無限大になるから問題なのではなく、ゼロ割りというのが定義されていない、のが問題なのです。このとき

   a = b / 0.000001

にして計算を進め、後から0.000001をゼロに戻す、というのがカットオフ正則化と似た(同じではありません)アイデアです。

 

多くの物理の本では、正則化は触れないか、触れてもカットオフ正則化で説明し、そこに「論理的矛盾があるけれども、物理的には正しい」という趣旨の脚注は付かないように思います。

 

くりこみ理論が登場してから20年以上経って、数学者と物理学者(オランダの'tHooft、近いカナ表記はエトホーフトかアトホーフト)により次元正則化ができました。

次元正則化では、時空の次元4が原因で計算式に値4が出てくる部分を、小さな純虚数(たとえば0.5i)にします。つまり、計算式中の整数4を純虚数0.5iに書き換えます。正則化を戻すときは0.5iを4にします。

次元正則化は、あまりにも計算技法過ぎますが、正則化した後の式はローレンツ共変性を持ち、くりこみの計算が一貫して相対論的になります。

 

くりこみ理論についての補足(私が以前wikipediaに書いた内容の転記です)

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くりこみ可能を数学的帰納法で証明するには、まず低次で可能であることを実際に計算して示し、次にn次までくりこみ可能ならばn+1次でも可能である事をウォードの恒等式により示す。ウォードの恒等式が成り立たない事をゲージ異常(ゲージ・アノマリ)と呼ぶ。ゲージ異常があると単純には、くりこみ不可能である。QCDにおいてゲージ異常をゼロに相殺するには、クォークのフレーバー数が6であることが必要である(小林・益川)。なお、ゲージ異常はアティヤ・シンガーの指数定理と関連している。また、ウォードの恒等式は、ゲージ理論の種類により、ウォード・高橋・スラブノフ・テイラーの恒等式に拡張される。
)---

 

さらに補足のコメント:

経路積分(経路積分を考えたのはディラックファインマンディラックのアイデアを実際に計算できるレベルまで具体的な詳細を詰めた。)によりh(a)を求める式が書けますが、それは形式的な式に過ぎません。実際には繰り込みによりh(a)とg(a)=mの関係式が与えられるだけで、h(a)を単独でスッキリと計算する式が与えられるのではないのです。経路積分と摂動展開は、左辺の値を教えてくれる式ではなくて、複数の物理量の間のネットワーク的な繋がりを教えてくれる、というものです。