厳密さを求めること(6)数学基礎論

数学基礎論

 

数学は物理から見ると病的なほど厳密さや無矛盾にこだわるような気がします。そんな数学も数学基礎論では病的なこだわりを捨てました。

 

事のはじまりは、良くわからないんですが、たぶん、無限級数の収束のような気がします。何が起きたかというと、ほぼ全員で予想外の間違いをした、という事が起きました。

 

有限の個数の数の足し算では、足し合わせていくのは、どの数から始めて、どんな順番で足し上げて行っても、結果は同じです。しかし、無限の個数の数を足す(無限級数)では、順番によって違う値になる、という発見があり、その事が見つかったとき、多くの数学者は自分がやっていた計算を見直した(パニックだったらしい)、と伝えられています。

 

たぶん、このとき、数学者の胸の奥に、「全員が正しいと認めた計算、証明でも、ある日、誰かによって誤り・見逃しが見つかるかも知れない」という疑念が植え付けられたような気がします(私の妄想です)。これでは、古代エジプトや古代中国で見つけられた2次方程式の解法が現代でも成り立っているのだ、さあ根の公式を覚えよう、と言え無くなってしまいます。

 

19世紀から20世紀初頭にかけて、数学者ヒルベルトが解決策を提案しました。方法は

1)日常使う言葉の使用をやめる。すべて記号で書く。

  これで、個人的な言葉遣いの曖昧さが排除できます。

  数学の文章は、すべて記号の列として書かれます。

2)算術規則、推論規則を定義する。

  記号列の変形、別の記号列を発生させる方法を制限します。

3)「正しい」と約束する記号列をいくつか用意する。

というものです。

 

この3)の記号列を公理と呼び、ヒルベルトの提案は公理主義と呼ばれます。

1)の記号は

  日常の言葉    ⇔  記号列

  A または B  ⇔  A⋁B

  Aでない     ⇔  ¬A

のような感じです。「または」という言葉と違って「⋁」という記号はその使用法がきっちり定義されています。

 

ここで、ヒルベルトの夢のような提案は、

夢1)どんな数学的主張でも、それが正しいか正しくないか、判定できる。

夢2)上記の判定は、判定の手順によらず、同じ結果になる。

というものです。

上の「数学的主張」は有限個の記号列からなるものとし、判定も規則を有限回使うとします。

 

ヒルベルトユークリッド幾何学を自分の方法に沿って構築して見せ、他の数学者にも後に続くように促しました(素人の想像)。

 

この提案に対し2つの反論が出ました。

反論1:記号列の変形は、数学者がやりたい「楽しい数学」ではない。

反論2:夢1が成り立たない例が、具体的に作れる(ゲーデル)。

このうち反論2に対しては、ヒルベルトが当初設定した定義・規則にさらに制限(禁じ手)を追加すれば、ゲーデルが作って見せた反例を回避できるかも知れないという提案(ラッセルの型の理論)がありました。ラッセルはホワイトヘッドと共同で本を書き、他の数学者にも後に続くように促しました(素人の想像)。

 

そして20世紀中頃に次の選択がされたように、私には思えます(素人の想像)。

 

1.永遠の数学は、あきらめる。

2.ラッセルの提案の正否は、追及しない。

3.数学基礎論から数学の文字を削除し、数理論理学に改称する。

  数理論理学は論理学の一分野であり、論理学は数学ではない。

 

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21世紀になってコンピュータによる証明システムが複数作られ、代表的なシステムでは中学か高校程度の例題が解けるらしいです。(VisualStudioCodeのAddOnでLeanとcoqがありますが、私には使える技量がありません。)また、どの定理がどの定理の証明に依存しているか、が調べやすくなり、従来よりも広い視野で定理群が理解できるらしいです。

 

この証明システムがやっているのは、ヒルベルトの方法そのものですね。

 

もし、証明システムが道具として、数学者がやりたい「楽しい数学」に役立つならば、ヒルベルトの提案、ラッセルの提案、数理論理学などが、数学に復帰する、気がします。

 

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以下は、物理という数学を道具として使う立場からの、数学基礎論への期待です。

 

数学を基礎づけるものとして思い浮かぶのは

自然数や実数のモデル

・算術規則

・推論規則(証明の枠組み、論理体系)

集合論

とかで、それぞれに複数の選択肢があるため、普通の標準的な数学とは違う数学があるらしいです。名前を見かけるのは、論理体系に古典論理、様相論理、量子論理(ノイマンとバーコフが量子力学をヒントに考え、竹内外史さんが晩年研究していた)などがある、とかです。上記4つ以外にも選択公理の使用の有無とかがあるそうですが、いずれにせよ、現在の普通の数学とは微妙に異なるパラレルワールドがたくさんあるようです。

 

そうならば、多数あるパラレルワールド長所と短所を箇条書きにした一覧表が見てみたい。一覧表作りは人間でなくコンピュターで。たぶん、数学にとっても役に立つ気がします。

 

一覧表ができたら、物理はどうするでしょう? 分野毎に使う数学を切り替える?