物理学者ディラックが発案した後、数学者がデルタ関数をイメージした厳密な数学を3つ作りました。作られた時間順に挙げると
・フランスのシュワルツによる、分布(英語でdistribution)
・日本の佐藤幹夫による、超関数(hyperfunction)
・ロシアのゲリファントによる、一般化関数(generalized function)
ですが、物理側では無視しているように見えます。
ロシアの物理学者ボゴリュボフが、何かの国際会議で、上記の「無視」について数学コミュニティに対してお詫びの言葉を述べていたと思います。
物理ではデルタ関数を使って計算して
a = b
が得られた時、「もしかして数学的に正しく計算すると
a = b + ε
になるかも知れない」などと心配しません。物理で行うのは、aとbの測定で、測定値が大体同じならば a = b でオッケーです。
もし、aとbの測定値に一貫したずれが見つかった場合でも、数学的に正しく計算してみようとはしません。そのときに物理が考えるのは
・計算の出発点となった式に間違いがないか
・何か見逃した効果は無いか
などでしょう。
厳密さを求めるならば、デルタ関数を使わずに、分布とか佐藤超関数を使うのでしょうが、それは、バランスを欠いた態度のように見えます。
流体力学では佐藤超関数を使った本がありますが、使う動機は「便利だから」であって、「厳密だから」、ではないようです。