ユークリッド化

数学は基本的にユークリッド空間を扱うのですが、物理ではミンコフスキー空間を使います。この2つの空間は色々な性質が違います。

 

説明抜きに専門用語を使うと、距離に関して

  ユークリッド空間:正定値計量

  ミンコフスキー空間不定計量

という違いがあり、点と点のつながりに関して

  ユークリッド空間:距離位相で近傍を定義すると、分離公理が成り立つ

  ミンコフスキー空間:距離位相で近傍を定義すると、分離公理が成り立たない

という違いがあります。

なお、ミンコフスキー空間での上記の"近傍"とは、大雑把には、光円錐の事です。

 

したがって、数学の本で『多様体』『リーマン幾何学』『位相幾何学』『トポロジー』とかいうタイトルの本に書かれている定理や公式は、基本的に物理(相対性理論)では使えないのです。

もし、使おうとするなら、ユークリッド空間を前提として数学者がやっている証明や計算を、注意深く確認して、必要ならばミンコフスキー空間向けの新たな証明や計算をやらなくてはなりません。

 

そんな大変な事を避けるのが「ユークリッド化」という逃げのテクニックです。

 

ユークリッド化とは、ミンコフスキー空間の物理でf=g(h)のような数式があった時、ユークリッド空間で同じ形の数式f=g(h)を考える、という話です。すると後者には、数学者が用意してくれた道具が使い放題になります。そして後者で何か結論が得られた時、それと同じ結論がミンコフスキー空間でも言えるだろう、と提案するのです。

 

この最後の提案は、最初の「ミンコフスキー空間でのf=g(h)」から数学的に正しい計算で導かれた結果ではありません。しかし、物理にとっては、その提案が新たな展開を生むきっかけになったりするので、物理学的には意味のある話なのです。

 

ユークリッド空間とか、他にも可換群という、キレイな性質の対象ばかりを考える数学者に対して、「頭の中のお花畑で遊んでいる」と批判したい気持ちになることがあります。「現実の身の回りにあるのは、非ユークリッド空間や非可換群ですよ」と言いたくなることがあります。まあ、物理中心の一方的な言い分なのですが。